のぞきからくりはどこへ行った |
寺田寅彦少年の想い出(明治時代)
「十四五歳のころであったかと思う。 ----<中略>-----
当時は町の夜店に「のぞきからくり」がまだ幅をきかせていた時代である。小栗判官(おぐりはんかん)、頼光(らいこう)の大江山(おおえやま)鬼退治、阿波(あわ)の鳴戸(なると)、三荘太夫(さんしょうだゆう)の鋸引(のこぎりび)き、そういったようなものの陰惨にグロテスクな映画がおびえた空想の闇(やみ)に浮き上がり、しゃがれ声をふりしぼるからくり師の歌がカンテラのすすとともに乱れ合っていたころの話である。そうして東京みやげの「江戸絵」を染めたアニリン色素のなまなましい彩色がまだ柔らかい網膜を残忍にただらせていたころの事である。」
(昭和六年九月、雑味) 「寺田寅彦随筆集 第三巻」 青衣童女像 寺田寅彦(1878 - 1935)
江戸時代末期から昭和40年代まで営業していたのぞきからくりは大掛かりな装置が必要なためか日本ではもう興行的には消滅している。残念ながら、のぞきからくりを見ることができるのは博物館だけである。
<実物>
新潟県西蒲原郡巻町 郷土資料館:のぞきからくり「幽霊の継子いじめ」 (継母物) 広島県三原市 歴史民俗資料館:「俊徳丸」 (継母物) 佐賀県鹿島市 北園忠治氏(未公開):「不貞の末路」 鹿児島県奄美大島 原野農芸博物館:「地獄極楽」(黒田種一氏使用のもの) <ミニチュア版> 佐倉市の国立歴史民俗博物館:「地獄極楽」 大阪市の大阪歴史博物館:「地獄極楽」 「日本の放浪芸」DVD版:「幽霊の継子いじめ」と「不貞の末路」の実演収録 私はVTR版で「不貞の末路」を見たことがある。亭主殺しの奸婦が若い男と一緒に逃げるが、ついには巡査につかまり死刑になるという勧善懲悪物。現代での実演は内容的に難しい。 |
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